来るべきフィルムレス時代にそなえ、画像診断を取り巻く環境は、変容を迫られています。しかし、多くの画像診断医は従来のシャウカステンを用いた読影スタイルとPACSを用いたモニター診断システムの相違にとまどいを隠せません。また、HIS-RIS、電子カルテなど全病院規模のシステムとの整合性も考慮が必要であり、状況はますます複雑になります。 各論が非常に難解になる中、我々は今一度、医療における情報化の大前提を再確認する必要があるのではないでしょうか?電子化のもたらす恩恵により、医療情報は整理、統合され、医療従事者および患者に適時、適量、適切に提供されます。これにより業務は省力化され、医療の量的、質的向上につながります。しかし、肥大化、複雑化するシステムは、しだいにシステム構築自体が目的となり、本来恩恵を得るはずの人間の存在を忘れることになります コンピュータの標準入力はキーボードとマウスであり、標準出力はモニターとプリンタです。「オーダーエントリシステム」という言葉が代表するように、現在のシステムは入力偏重の傾向があり、医師の立場としては操作を強いるわりに必要な情報が取り出しにくい。我々は、医療における最良なシステムは、最小限の操作(入力)で手続きが終了し、最大限の医療情報が適時、適量、適切に引き出せることが必須であると考えています。言い換えれば、サーバは安定性、速度の面でこれを探究し、端末は人間と円滑な情報交換を行えるよう設計をすべきであります。コンピュータの基本骨子にしたがって、システムを構築するのではなく、まずインターフェイスを設計してからシステムを考える必要があります。 モニター診断環境においても同様のことが言え、我々はこの命題を解決するため、ユニークな手法をもとにDICOMビューアの開発を行っています。最小限の操作性を実現するため、human interfaceを探究し、最大限の画像情報提供能力を引き出すため、dynamic tiling window systemを独自に開発しています。





われわれ読影医はモニター診断においてしばしば病変の見落としを経験します。この多くは端末操作による注意力散漫に起因します。読影医は、画像に集中し入念に観察することで、立体的な解剖把握が可能となり、病変の有無、病変の質が診断可能となります。しかし、モニター診断においてさけて通ることのできない操作が読影医の思考過程を中断し、視線移動の際せっかく構築された立体認知がもろくも崩壊します。このように、煩雑、難解な操作性は読影医の集中力を低下させ、疲労度を増大させ、読影効率、精度を決定的に低下させます。読影においては医療画像の情報を最大限引き出すことが重要であり、操作はそのための手段に過ぎないと考えています。





「実世界からのメタファーを使用する」「操作に対しそのメタファーは反応を返す」「フィルム読影環境を模倣する」ことにより、コンピュータが作り出す仮想世界に投影されたデジタル画像に、実体感を持たせることが可能です。これにより、読影医は擬似的にシャウカステンにフィルムを掲げるような感覚を享受できます。そして、実世界での経験に基づき操作が可能であることを知り、システムに対する親近感を獲得します。また「寛容性を保つ」「一貫性を保つ」「見えているものから選ばせる」ことで、操作を短時間で習得でき、操作を忘れることも少なくなります。大半の操作を「マウスドラッグ」により実現することで、操作の大幅な簡略化が可能です。





フィルム法と比しモニター診断では、画像表示面積、解像度が劣ります。これらを補うため、画像表示を動的にし、時間軸を有効に活用することが重要です。時間軸を加えた3次元化により、ビューアのもつ情報提供能力が飛躍的に高まります。最大限の画像情報を、最小限の操作で読影医に提供することが重要であり、これを実現すべくDTWSおよびbinding window(比較読影支援)を開発しました。オブジェクト指向のプログラミング手法を用い、ウィンドウ、タイルフレーム、イメージなどすべてを独立した部品として設計しました。これにより、多彩で動的な画像表示が実現され、しかも簡単な操作で表示形態の変更が可能となりました。読影医は自らのスタイルや症例に合わせて、画像表示形態を自由に選択可能であり、立体的な病変把握が容易になると期待されます。





多くの症例において、前回画像との比較読影が必要であり、我々はbinding windowという概念を実装しています。あらゆる操作において複数のウィンドーが連動し、実体サイズも同期します。これにより、読影医は視覚的に大きさの比較が可能となります。また、MR画像のT1強調像、T2強調像、造影画像の同期により、病変の詳細な信号パターンの評価も容易となります。





今日医療画像はその情報量を急速に増加させています。たとえば、1検査は数百MBに達し、1病院の年間の情報量は数TBに達します。これを解決するために下記のような工夫が必要です。

a.オープンソースを用いた分散システムを用い、安価、高性能なサーバを構築
b.DICOM規格に準じた圧縮技術を用い、画質を維持しつつ高速画像転送を実現
 可逆圧縮1/2-1/3、非可逆1/10-1/40を実現
c.安全性、大容量のアーカイブにDVD-Rチェンジャを採用
d.ギガビットイーサネットが画像転送速度向上に貢献